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企画力・開発力アップのための近未来デザインシナリオ法講座 |
企画・開発の対象は単品としての製品だけではない。ある製品をまったく新しく発想しようとし、すでに製造・販売をしているものと本質的に異なる場合は、製造ラインから販売チャネルまで新規に開拓しなければならない。いわゆるプロダクトラインが異質化し、新規事業として部門を新たにつくるか、さもなければ新しい会社をおこさなければならなくなる。このことを企業のなかだけで考えるのではなく、さらに広い地域社会にまで展開してみようというのが、グランドデザインである。
まず、商品企画・開発をすすめていくうちに、おのずとプロダクトアイテムが増加していくのが普通である。同時に、プロダクトラインのほうも多くなってくる。その増加は、技術革新や消費者側の多様なニーズなど、企業の内外の要因から発生してくる。そしてアイテムとラインの関係をいかに効率的にプログラムするかというプロダクトミックスがこれからは企画のポイントとなる。
このようなプロダクトミックスにみられる製品アイテムとラインの関係は、アイテムやラインなどの部分が全体計画を動かし変化させることもあり、逆に企画全体を再編成するために、ラインやアイテムを見直すこともある。
ここで事例をあげながら考えてみることにする。前回、前々回と「使い切りカメラ」をシナリオの例としたが、カメラにおけるラインを考えてみると初級機、中級機、高級機などの分類のしかたがある。そして、それぞれにさまざまな諸元がついている。つまり、アイテムが多様に考えられるわけである。
「使い切りカメラ」はたしかにカメラに違いないが、そのシステムが異なる。製造時からフイルムが内蔵され、ユーザーは一切手に触れることも見ることもできない。いわばひとまわりしてふたたびつくり手のところに舞い戻ってくるわけだから、従来のカメラとは売り方から製造や後処理(現像関係の処理とリサイクル行程)までの点でまったく違った仕組みをもっているのである。したがって、同じラインに入れるわけにはいかない。このように内容や規模の違いにもよるが、ラインから離れ、別の事業として組織化したほうがよい場合も発生してくる。
仮にラインを“線”とすれば、アイテムは“点”といえよう。点から線へ、あるいは線から点へと発展させることができる。あるひとつの製品アイテムから発した小さなコンセプトをトリガーとして、大きな構想に発展・展開させ、まとめあげることが企業の部門にとってはグランドデザインであるといえよう。逆にグランドデザインという大きな全体構想を描くことから個々のデザインアイテムを引きだし、設定することだといってもいい。
構想というものはすべてがある定められたアプローチのみで成立するものではない。部分から全体へ、逆に全体から部分へ、などのように成立の過程に決まりはない。
また、別のアプローチとして、企業のもつ理念からの構想もある。一般的には、これは企業や業界をとりまく現在の環境から発想し、構想していく。つまり、現在、なんらかの商品を企画し、設計し、製造・販売している諸条件の枠組みのなかでの構想である。
ある企業のかかえるポリシーが新たな構想のインパクトを発するときがある。たとえば、林原グループの経営活動をみるとき、食品やそれにつながる薬品、つまりバイオに関係する一連の企業活動のほかに、一見まったく関係のない照明器具の生産・販売がある。しかしながら、その背景をたどると、人間が人間らしく生活をするという考えに基づいて、生物学的視点から、ヒトにやさしい光のあり方を追求していくという意味がある。やはり、バイオという点で企業のもつ理念にそった考えであることが理解できる。
構想のきっかけがどのような理由であるにせよ、ある小さなアイデアやヒントをもとに製造業からチャネルをもつ製造販売業に、さらには情報提供業へと業態変化を促すステップが考えられる。同様に、扱う品目の多様化、多角化を図るなどの業種変化をもつこともあり得る。
自治体のような公的サービス機関では、地域のもつ活力、すなわち“地場”を活性化し、地域に産業上、あるいは生活上の力をつける意味で基本構想を描く“地域のデザイン”に乗りだしたところが多い。
このように地域の構想をデザインする「グランドデザイン」が活発化しはじめた。
わが国では、大都市への人口の集中化が顕著になって久しい。これに対してUターン、Jターンなどといわれる人口の移動をうながす対策を各地方自治体もはじめた。具体的には、各地方自治体も地元の活性化を図るため、地元にハイテク企業を誘致したり、地場産業企業の育成をはじめとして、観光事業などにも本格的に力を入れはじめた。最近では公共事業やリゾート開発、ディベロッパーによる地域開発へと、その対応は多様である。しかし、一部にはそのやり方が非難を受けるなど、マネジメントの難しさをあらわしている。また、一村一品運動やふるさと再生論などは、かつての活性化のなごりといえるだろう。
過疎化に対して、各地域がそれぞれの活力と魅力をいかに生みだすかが注目され、評価されているといっていい。魅力のない土地には人は見切りをつけて住まなくなるし、観光としての価値もない。そして人がいなければ企業誘致はもちろんのこと、地域の産業もおぼつかなくなる。
そこで、やはり人が生活するのにふさわしい条件が満たされるよう地域のデザインがなければならない。魅力的環境のデザインをどのようにつくっていくかが課題である。もちろんそのためには、条件設定をめぐって、行政はもちろん、そこに住む住民や企業のコンセンサスやリファレンスも必要であるし、同時に運営のためのマネジメントも仕組まれなければならない。
さて、条件とはいっても、それはあくまで魅力ある条件でなければならず、そのための構想設計が求められる。構想設計の方法、つまりデザインはまず、その地域の観察や調査からはじまるが、製品開発と根本的に異なるのは、開発にあたって住民である「人」と「自然」が深くかかわっているために、つくり直しがきかないことである。したがって構想から具体化への全プロセスの手続きは常に間違いのないようにマネジメントしなければならない。このような意味で一貫して構想全体のシナリオの妥当性が問われる。
実例として北海道放送の例(図表7-1)を説明してみよう。
北海道放送の14年にわたる長期的なビジョン展開をみておこう。まず、この歩みを箇条書きで示す。
@昭和30年、北海道新聞は北海道放送の設立を準備していたが、その前提としてサービスエリア全体をカバーしうるテレビ塔が必要とされた。
すでにNHKはテレビ塔を所有していたが、この塔を借りたのではエリア全体に電波を送ることができない。そこで札幌郊外の手稲山にテレビ塔を建設することが企画された。
A手稲山は半年間積雪にとざされるため、工事は手法的にも難しいものであった。しかし、何とか半年の間に雪上車を通せる山道、送電線の架設、送信所などを完成させることができた。
Bこの難工事を推進した北海道新聞社長・阿部氏は、北海道地域のアイデンティティの確立こそ、企業の基礎であると考えていた。そこでテレビ塔工事を足がかりとして、将来構想へとステップアップさせるべく構想を練った。この結果、生まれたアイデアが「札幌で冬季オリンピックを開催しよう」という将来構想(ビジョン)である。
Cしかし、オリンピックを一足飛びに開催することは難しい。そのための準備段階として、もうひとつ身近な構想が必要となる。さいわい同社社員のなかに、スキー連盟の役員が何人かいたため、この目標に向かって連盟を動かし、昭和33年、手稲山で第1回宮様スキー大会を開催した(この宮様スキー大会は、オリンピックへ向けての世論喚起であるとともに、オリンピック選手の開発であり、また、放送技術の開発ともなっている)。
D宮様スキーの実績を土台に、行政機関、産業界、地域住民の指示を集めつつ、プレ・オリンピック、そして札幌オリンピック開催へとこぎつけた。
オリンピックは昭和47年に開催され、第1回宮様スキー大会から、実に14年の歳月を要したのである。
この北海道放送の事例で注目すべき点は、将来構想(具体的には札幌オリンピック開催による地域アイデンティティの確立)から、基本計画(グランドデザイン、オリンピックを実施するまでの一貫した戦略)、実行計画(シナリオ、グランドデザインに基づく各事業の実行計画)に至るまで、基本姿勢が貫かれている、という点である。
現在、日本各地において過疎化の現象が起こり、ところによっては生活に歪みが生じていることは周知の事実である。そこでこのような実情をふまえ、次に示す課題へのアプローチを演習としてみたい。図表7-2の地域を開発するための全体計画案を作成する。
@まず、特徴・特性をピックアップする(図表中のアンダーライン部分)。
a:陸地(本土より)より近い、 b:小さな島、 c:気候は温暖、
d:きれいな海、e:半分は険しい土地、f:人口集中部以外に人家がない、
g:廃坑がある、h:工場用埋立地がある、i:昼間は老人と子供だけ、
j:学校は小・中学校がある
Aもっとも特徴のある条件をマーキングする。
gの廃坑はそれほどどこにでもある条件ではない。iの老人と子供だけが昼間いることもやや特徴的といえよう。
魅力をつくり、活性化させる方法として、よい条件をさらにいかす方法と、不活性条件をよい方向に転化させる方法がある。
ここでは事例として後者の条件の悪いものをトリガーとしてすすめてみることにする。
まず、廃坑に着目する。廃坑の特色・特徴を列挙する。廃坑は文字どおり、かつての炭鉱のあとだが、おそらく地下数百メートルまで掘り下げてある。ここでは小さな島のなかでおそらく海底の下まで掘り進められていよう。
このように地下に垂直にイメージしていくと、gを除いたすべてが対照的にみえてくる。むしろ比較し、関係づけてみる。すると、図表7-3のキーワードが、島を断面として想像し、浮かび上がらせることによってでてくる。
これは、廃坑をひとつとりあげ、他の項目と比較してみるとこのような対比関係がみえてくる。実はこのなかに物理的な要因と心理的な要因の両方があるところがポイントである。
「廃坑」と「きれいな海」を対比的・対照的にとらえたうえで、次に機能と情報性(情緒性)の2軸による組合わせによるチャートをつくる。地域や空間も先のものとしてのカメラ同様に基本的な構成要素によって構想概念を導きだす。
グランドデザインのシナリオも製品企画や事業企画と同様に、部分から全体に、あるいは全体から部分へ、というようなアプローチの決まりがあるわけではない。しかし、常に部分と全体との相互思考をもたなければならないのは当然である。
タテ軸のイメージの構築に際しては「類似」「連想」などのアナロジーが手がかりである。さらにタテ軸、ヨコ軸を詳細に展開してみると図表7-4のように示すことができる。
次に、先の廃坑と海の対照的な特徴をふまえながら、生活の目的・行為系とイメージの世界のそれぞれとを組合わせてみる。クロスしたポイントにいわば機能と情報の交錯した状況を模索する。比較的、可能性があり特色のある案、x案、y案、z案が導きだされたとしよう。
x案はディズニーランドの延長と考えられなくもないが、地化・地上をいかしている点では若干異なる。映画『インディジョーンズ』のシーンをダイナミックに体験できる世界だ。z案は地上と地下の世界の違いを味わいながら、本格的に休養、休息できるいままでにない“カルチャー・レジャーシステム”が考えられよう。
さて、y案であるが、たしかにカッパドキア的な地下都市である。xおよびz案と根本的に異なるのは、本土から遠く不便であるほどよい、ということである。また、地下という閉鎖された空間で研修、学習、トレーニングするにはある種の覚悟が必要となるからである。
だから、本土からわずか1kmであっても橋やトンネルをつけては意味および心理的効果が消える。
日本に限らず、社会人になっても各種の資格制度のための試験や研修は多いものである。しかも短期間に行わなければならない場合が多い。地下にいくにしたがいインディビデュアルな研修であり、上方はoff・J・T的となる。地上は地下での精力を補う意味でのオアシスでなければならない。
ただし、一流の講師はヘリポート化した工場用埋立地に離発着する。当然、島の老人、若者はこの施設の重要な職員として勤務することになる。
以上、実例から演習課題までを解説した。
たしかにグランドデザインは各地で盛んに行われている。長崎の「オランダ村」にはじまった「ハウステンボス」など。また、リゾート法による活性化の展開も数多くみられるが、似たものを多くつくっても特色があるとは思えない。
基本的に、企業にあっては企業文化に、行政にあってはあくまでも地域文化に根差したデザインポリシーでなければならない。そしてこのグランドデザインを実現するプロセスは、コンセンサスをとりつつ、失敗のない構想とマネジメントに支えられなければならない。