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企画力・開発力アップのための近未来デザインシナリオ法講座 |
すでに市場にでている製品をヒントにして、似たものを企画したり、若干の改良や改善を加えることは比較的たやすいことである。いままでにもこのような方法で製品を市場にだしてきた。
たしかにこのような方法で企画・開発することは効率的であったと思われる。顧客も生活の様式やリズムを大幅に変えてまで革新的な生活を送ろうとは思っていなかったし、製品を送りだす企業としても、まだまだ海外の製品のなかにヒントを求めていたことは事実である。あえて大きなリスクを冒してまで新しい魅力的な生活のためのアイデアをもとうとはしなかったのである。
しかし、多様化の時代を迎えるにいたって、海外の市場から得ていた製品開発のヒントは徐々にその数を減らしていった。その半面、国内では市場の成熟度を増し、つまり、消費者にモノがいきわたり、普及率は高くなってしまった。
いいかえれば、いくら安くて機能的な製品が市場にあっても、新しい生活をもつに至る製品としては限界を示していたことになる。
ここにいたって従来の製品企画の発想を変えない限り、新しい切り口の生活提案は示せないこととなったわけである。消費者と接する販売店などから、生活提案型の製品の提供が叫ばれていたのもこのような理由による。
ここでは生活のシカタから発想する、いわゆるコトからの発想法をシナリオ・ライティングと重ね合わせながら説明してみよう。
前節では演習として、モノからコトへの発想を事例をあげて示した。ただし、それはモノの機能を肯定し、もっともふさわしいコトをシナリオとしてとらえる方法であったが、ここではさらに改良・改善のためのシナリオ化を説明することにしよう。
前節で、使い切りカメラの特徴を5W1H+価格によって整理し、シナリオ化を試みた。その際、演習を前提としていたので製品の構成要素すべてを肯定的にとらえてみた。しかし、現実の製品をつきつめて考えると、そこにはかならず欠点や不満があればこそ、新たな提案が発生する。すでに新しい提案の出しかたとして「3不」について述べた。3不は“不思議、不安、不満”だが、ここではこれらを手がかりに問題点を描出し、引きだされた問題点を解決した場合を想定したシナリオを示すことにしよう。便宜上、前回と同様に5W1H+価格を整理項目として3不を導きだしてみよう。
図表6-1をみてわかる通り、たしかに、不思議、不安、不満は限りがない。そして、これらのうちのある3不が解決されないと、その先の問題点はわからないものである。いわば深い霧のなかで先をみつめている様子に似ている。表のなかの2つを解決したと想定するシナリオを示すとつぎのようになる。
●日本行の国際便はパリのシャルル・ドゴール空港を飛び立ったばかりである。
いま愛子は満足した微笑を顔にあらわし、どっぷりと座席に腰をおとしていた。
実は先ほど、愛子は大ファンであるクリスタル・ミカ・バンドのメンバーと一緒に写真におさまったからである。
春休みを利用して大学院生の愛子は生活風俗を研究するためヨーロッパ各地をまわった。対象を記録するために、もちろんカメラを持参した。なかでも最近コンパクトなカード型の使い切りカメラを20個もっていったが帰りの土産のことを考え、邪魔になるので最後の日に郵送して身軽になった。そして数々の思い出を胸に、帰りの国際便に乗ったが、運よく同じ便に先ほどのバンドのメンバーが乗り合わせていたというわけである。ひそかに胸ポケットに最後の1台のパノラマ型のカードカメラをしのばせていたのが幸運にも威力をはっきした。それがたまらなくうれしかった。
彼女は帰宅したら早速、全判いっぱいに大伸ばししてもらい、部屋のどこに飾ろうかと思いめぐらせていたのである。●
このシナリオのなかでは3不として、大きさが邪魔であること、大伸ばしができないことへの不満が主なところである。このふたつのことから、身軽になるコトと大画面の写真を楽しむコトが導きだされた。あとは解決のための技術が導きだされる。
つまり、下記のような研究・開発のテーマが抽出されたわけである。
@タバコサイズか、またはスリムなカード化の技術開発
A郵送できるための対策研究(法律や税関手続き、X線対策などの諸事項および、郵送での“厚み”〔約1p以下であること〕)
B大伸ばしを可能にするための画質の向上研究や中判フイルム採用などの技術開発
2,“使い方”から新しい製品へ
“シカタ”から新しい事業企画へ
以上は特定の、しかも既存製品の問題を抽出してシナリオ化を行ったが、つぎに特定の製品に限定せずに一般的な道具による生活を前提として考えてみることにする。すなわち、日常、非日常の生活のなかから、ある生活の行為単位をとりあげ、望むべき生活のシカタを描いてみる。
●〈シーン7 家庭管理(その2)〉
突然A子の家のTVがファンファンと鳴りだす。画面で Help の文字。
A子 「あっ、心配しないで近所のシルバー世帯。私、ボランティアやっているんだ」
・・・え、人は見かけによらないね。
A子 「おじいちゃん。元気そうね」
TV電話に向かって呼びかける。
老人 「A子さんかい。血圧がね。やたらと低いんだよ。それにとても気分がわるくてね」
A子 「もう一度やってみましょう。まずガウンのそでをまくって、そのまま腕を筒のなかに入れて、ゆっくり息をしてみてください。そうそう」
老人 「で、手前の左側のボタンだっけ」
A子 「ううん、右側。緑のボタン。ピッピッピと鳴ったら赤のボタン」
画面から声しか聞こえないのにA子はしっかりリードしている。しかもお寿司をつまみながらだ。何か国際電話みたい。へんに間があく。あとでA子に聞いたら、A子の声をゆっくり、はっきり伝える仕掛があるという。で、答えが遅れるわけだ。
また、おじいちゃんのほうは操作を簡単に省略するとか、文字を大きくする装置もあるという。
A子 「数字、読める?」
老人 「 110と60。いや、すまない。これなら、だいじょうぶか。昨晩、めずらしく遅くまで本を読みすぎたかなあ」
A子 「そうよ。まだまだ元気なはず。今日夕焼けがとってもきれい。少し散歩してみたら。上着ちゃんと着て、ほらツィードのあったでしょ。あれ似合うわよ」
老人 「それとTVの番組予約だけど、あす10時から水戸黄門の総集編があって・・・」
A子 「本当にビデオややこしいわね。私だってできないからいつも子供にやらせてるの。ビデオ予約も私もおじいちゃんにもできる簡略操作ソフトができるといいんだけど。
それじゃ、あとで子供にテレコントロールさせるわ。今日、厚木行ってきたんだけど、本当に変わっちゃって・・・」
以下、3分ほど、おしゃべり。
A子はシルバー世帯のセキュリティシステムをモニター。
「電話が2回、玄関のあいたのが4回。あとは異常なし」と。これは通信後、自動的に表示されるのだという。
A子はすこし得意げにボランティアの話しをしてくれた。いつもの近所のゴシップのときと違って少し先生っぽい。
『Help』の文字が画面にでて、何も映らなかったら本当の問題発生。こちらから、セキュリティ表示を操作して、ここに問題がなければいよいよ本人。『シルバーセンター』を呼びだし、すぐかけつける。シルバーセンターからもレスキューが出動するというしくみだ。
こっちも質問。「さっきみたいに不在のときは?」「ボランティアがサークルになっているの。私がいなければD子さんの家に自動的につながるわ。それけもでなきゃシルバーセンター」
「電話かけられるの?」「さっきのおじいちゃんは大丈夫なのだけど、受話器をはずして画面を2回以上たたけばいいの。そうすれば私がでる」
A子 「こういう問題はやはり地域でカバーしていかないと。おじいちゃんも世田谷に子供がいるんだけど・・・
本当に大切なことって、『どうしたの』とか『こまったわね』といわないことなの。不安がらせちゃいけないって。
TVの予約なんて昔はなかったもの。できなくてあたりまえ。そのあたりまえを私たちが手助けしてあげる。一種のボランティアオペレーターシステムよいつまでも社会のたいせつな一員なんだって・・・」
だから画面を見ずに「おじいちゃん元気」といったわけだ。でもセキュリティシステムをこちらでチェックしていることは知らせていないという。
誰だって、管理されたくないもの・・・。●
ここでは、近未来シナリオ「中村さん一家の一日」(図表6-2)を紹介する。このシナリオは10シーンで構成されているが、ここではふたつのシーンを取り上げることにしよう。
シーン7は老人の在宅介護をテーマにしたものである。
高齢化社会は確実にくる。あと20年で人口の4分の1が65歳以上で占められるという。製品の企画、開発のターゲットをいつまでも若者を中心にするわけにもいかない。
●〈シーン9 健康管理〉
午後6時〜7時
D 「最近こういうものを買いましてね。」
良夫 ・・・冗談じゃない、オレは7時の新幹線で帰りたいんだから。・・・
Dがぬっと腕をつきだす。腕時計にしては大きい。
良夫 ・・・またこいつ変なもの仕入れやがって、昔からその気かあったんだよな。・・・
D 「何にみえますか。ええ、これカロリー計算機ですねん」
Dいわく、糖尿病の気があるので、こまめなカロリー計算が必要ということらしい
まず、カロリー量をさだめ、毎食後にマイナスしていくと、残りのカロリー量が示されるというもの。カロリー量だけではなく、栄養素も表示されるという。
D 「この分でいきますとですね。つくねが2本、レバーが2本、ビール中1本。おっと、野沢菜漬けがいりますな。おじさんー、何かハハハァ・・・」
良夫 ・・・何がハハハァだ。赤ちょうちんまで来て酒がまずくなるではないか。・・・
D 「どうしてメニューまでわかるのかって、ここがコンピューターの進化したところ。まあ、食べるもののバリエーションなんてそれほど多くないから。専用のソフトセンターへ頼めばできるんだよ。医者とソフト医がタイアップ。まあ、眼科と眼鏡屋の関係みたいなもんですな。で、医者へいくと、このデータ吸い上げて、『よくないですな』とくる」
良夫 「カロリーオーバーしているんじゃない」
D 「どっこい、今日は歩いてかえるから」
大男で太めのDが、こちょこちょ操作している姿は何となくいじましかった。
良夫 ・・・身体にセンサーをうめこみ、血糖値を、ってのができたら、こいつは真っ先に買うだろうね。●
高齢者への対策として、早口の語りかけをゆっくり聴きとらせるソフトとか、自動的にみやすい文字の大きさにするソフトなどは緊急を要する研究テーマである。また、ハードのみではなく、ボランティアシステムなど、市民の社会の一員としての活動意識の喚起も大切だよとよびかけているシナリオである。
シーン9は健康管理がテーマである。
誰でも自分の身体の条件を適切にコントロールすることは難しいものである。たしかに、大切なのは自分との戦いではあるが、必要に応じて身体の情報を知らせてくれる媒体があってもよいはずである。専門の領域を越えない範囲でのサポートシステムは考えられよう。
つまり、生活のシカタの提案、コトのデザインがあってモノのあり方や技術開発、研究のテーマがいかに導きだされるかおわかりいただけたのではないだろうか。