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企画力・開発力アップのための近未来デザインシナリオ法講座

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第5節 既存商品からシナリオを読みとる 
〜モノからコト化へ〜

 前節では、シナリオ・ライティングによる「仮説づくり」を概説した。繰り返しになるが、的確な商品計画や事業企画、そしてグランドデザインにおよぶプロジェクトを実行しようとするならば、必要とする情報を取得しなければならない。その情報とは、自ら「仮説」を市場や社会に投げかけることによってはじめて得られるものだ。
 仮説づくりは、とりあえず当事者の考え方を何らかのかたちで表現しなければならず、また、仮説を投げかける「場」や「機会」もあわせて必要であることも説明した。そして、仮説を表現する手立てとしてのシナリオの内容には、ネタ(種)に相当する“ミソ”づくりがなければならないと述べた。この“ミソ”は個人や社会の生活に対するある種の理念に支えられる、核となるものである。
 ここではシナリオ・ライティングの手法を理解し体得していただくために、既存の商品からそのシナリオ手法をたどってみたい。

1,モノ(既存の製品)からコト(使いかた、シナリオ化)へ

 本来、シナリオはいまだ存在しない状況をあたかも存在するかのようにコンテクスト(文脈)化する表現方法だから、コンテクストの核となるネタを創造し設定しなければならない。このことはシナリオ・ライティング以前の問題である。また逆にネタそのものをシナリオから発見することもできる。ネタづくりからシナリオ化を理解するために、現在市場にでている商品を題材として、シナリオ化への手順を追ってみることにしよう。
 商品は小さな雑貨品から建築物までが対象となる。ほかに保険や旅行企画なども商品には違いないが、演習の題材としては、やはり実際の“モノ”のほうがモノとコトの関係が理解しやすい(図表5-1)。

2,シナリオ・ライティング手法体験の基礎

 演習の対象商品の選定のしかたによって、シナリオ・ライティングの体験の程度が変わるので、商品の特徴・性格を十分に腑分けすることも必要である。演習のテーマ選びについては概ねつぎのように分類できよう。

@ヒット商品
 これまで市場でヒットした実績のある商品。ヒットの要因はいろいろあるが、顧客の購入動機を喚起したネタがかならずあり、わかりやすい対象商品となる。したがって、ハードとして実物を前にすると、いかに生活のなかに適用されればよいかがイメージしやすい。

Aロングライフ商品
 これまで長期にわたり、市場においてユーザーの支持を得た商品である。近ごろでは比較的寿命の短い商品のなかで、息のながい商品は珍しいものである。やはり、それには理由があるはずである。その理由をシナリオの中心に設定し、生活上でのもっともふさわしい使い方をシナリオとして示す。

B気になる商品
 いままでに述べたヒット商品やロングライフ商品はどちらかというと、何らかの評価結果が市場で示されている。つまり、客観的な視点にさらされた結論が顕著に示された例である。ここでいう気になる商品とは、反対に主観的な評価にもとづいている点がそれらと異なる。企画を行なう者にとって、第三者が何をいおうと自分の目と頭で感じて判断する姿勢が求められるはずである。“気になる”とは場合によっては形の美しさ、魅力的な“グッド・デザイン”かもしれない。また、技術的なことや製造方法、あるいは企画そのものかもしれない。これらのことは自分自身はもとより、消費者にも何らかのインパクトを与えていることであり、題材に選ぶうえで実はもっとも重要なことなのである。

 基本的には以上3種を商品分析の題材に選ぶ。とくに「気になる商品」の選定にあたっては主観的な評価が主軸となっている点が重要だと述べた。本来のシナリオ・ライティングがコト化からモノを浮き上がらせる、いわゆる商品化への具体化のきっかけづくりを目的とすることを考えると、自分が“感じる”ことにもとづく分析、評価の基準をもたねば創造はおぼつかない。いわば、無から有を生みだすことは自分自身の評価体系からはじまるといってよい。
対象となる商品を具体的に選ぶには、日頃からの観察や注意が重要であることはもちろんだが、市場にでているカタログ、リーフレット、カタログ雑誌などを手がかりにピックアップしてもよい。なるべく、現物をみる、触るなどの操作を経て評価するのが望ましい。そしてあくまでも現物のもっている迫力ある情報からインパクトを受けてほしいものである。その際、商品コンセプトにもとづく商品の特徴などはリーフレットなどに示されているので比較的理解を助ける材料となる。ただし、あくまでも書かれていることを認知するのではなく、現物を体験して比較すること、そして最終的には自分の意思で総合判断する姿勢が肝要である(図表5-2)。
 演習としては客観的評価の高い商品はネタが理解しやすい。しかし、主観的評価としての自分自身で行なう気になる評価も体験しなければ観察の鋭さは磨かれず、新しい使い方をシナリオ化できる能力は育たない。

3,商品を構成している要因情報の整理

 テーマ商品の使い方を生活のなかでイメージして描写する、つまりシナリオ化するためには、その商品のもっている情報を整理する必要がある。シナリオの中心情報となる核としてのネタ、それに関連する情報を系として腑分けをする。
 図表5-2で示したように客観的評価要因と主観的評価要因は一致するのが本来望まれるものと思いがちだが、すべての商品の情報分析がなされているわけでもなく、また、できるものでもない。ここでは本人の鋭い観察が試されるわけである。主観的といえば、すぐに間違いやすいのが“好き、嫌い”の判断である。もちろん、好き嫌いも主観的評価の判断基準には違いないが、そのことが社会的評価のコンセンサス、つまり客観的評価の背景とどの程度同調しているかが問題である。演習では、自分の評価と大多数の評価が共鳴しているか否かの自己アイデンティティを試すことになる。そういう意味では正直に、かつ大胆に主観的評価を繰り返すことにより、客観的評価と結びつくことになる。日頃の注意としては、リーフレット、カタログ類はもちろんであるが、雑誌広告やテレビコマーシャルなどには端的にコンセプトをシーンとして示している場合があるので、商品との関係を深く考察することも大切である。ひとつのシーンや数秒間にきわめて短く圧縮された場面に学ぶべきことも多いものである。

4,商品構成の要因情報の整理方法
 情報整理の方法にはいろいろあるが、効率的な方法のひとつには、シナリオを構成する際の項目立てそのものを分類・整理して扱うやり方がある。商品そのものは本来、ある起承転結にもとづくシナリオによって成立しているはずであるから、構成項目にしたがって抽出してやればよいわけである。
 商品を構成している情報を5W1H+価格にもとづいて腑分けしてみるのも効率的な方法のひとつである。
 図表5-3は商品を構成している情報の項目に違いないが、すでに述べたように文章構成の基本でもある。少なくとも右の内容の空白欄には、観察した情報やリーフレットやカタログ類からの情報で埋めることはできよう。
 演習では、さらにこれらの内容をつきつめて、“もっとも”生活の場面設定でふさわしいシナリオをいかに求めるかが問題となる。いくつか想定される使用シーンのうち、もっともふさわしいシーンを示すことは、それが他のシーンを代表していることになる。ここでは、Uで取り上げた「写ルンです」(使い切りカメラ)の事例を代入してみよう。
 図表5-4の内容について、補足説明しておくとつぎのような解説ができる。
@「子供から老人までだれでも使える」というのは、操作がシャッターを押すだけであるということ。また、外装が紙製のパッケージであることから気楽な雰囲気をもっているのが特徴。

A「いつでも使える」というのは持参しなくとも国内のいたるところで販売しており、容易に購入できることを指す。シャッターチャンスの幅は格段に広がる。

B「どこでも使える」というのには上記と同様の条件がある。価格が安く、水濡れ、破損、置き忘れなどへの気がねがいらない。したがって海、山などのスポーツにも使える。

Cとくに、フィルムのイメージがあるので精密機械の高価なカメラと比較されにくい面をもっているのも大きな特色。

D結婚式などのパーティーではカラフルなパッケージが楽しく、明るいイメージを与える。

E基本的には写真を撮るためのカメラであるが、そのプロセスは楽しめる特徴をあわせもっている。また、価格が手頃であり、“使い切り”という区切りのある商品であることがギフトとしての機能をもっている。

F操作がきわめて簡単であること。巻き上げとシャッターを押すだけ。また、写す側、写される側の双方の心理には気軽さがある。

Gプリント代を入れると約2倍となり一見高価であるが、1台で撮影というセレモニーが1回もてることで、手離れと充実感をあわせもたせている点が特徴。

 以上、やや商品コンセプトをもち上げすぎたきらいもあるが、演習ということでご理解いただきたい。もちろん、すべていいことづくめでシナリオは成立するわけではなく、欠点や矛盾をむしろ導入することも大切であるが、このことについては後ほど述べたい。
 さて、以上の内容を前提として筋書きを構成していくことにする。
 まずミソの部分は、価格が安く、カメラでありながらフィルムのイメージをもっている点に着目し、起承転結をはかる。

●価格が安いので水に濡れても平気である→海やスキーに持参しても気軽に使える。
 高価なカメラと比較されにくい。→結婚式やパーティーに持参しても引け目をもたない。●

 上記の2項目をシナリオのネタとし、起承転結の中心に組込むことにする。
 水濡れすればこそすばらしいシャッターチャンスにめぐまれることと、テーブル上に堂々と置いてもほかのカメラに引けをとらず、むしろカラフルなパッケージがパーティの雰囲気を盛り上げていることを表現している。
 水濡れを海や山に限定しないで、「濡れる」を広く解釈してみる。海水や雪から雨や小川の水まで。もっと領域をひろげて、飲み物まで。

●清涼飮料→酒→日本酒→樽酒
 →ワイン→シャンペン●

 樽酒やシャンペンは晴れの舞台で使うものであり、文字どおりスパークリングし、使用状態では四方にしぶきが飛び散るイメージをもつ。いずれもお祝い事で使うわけであるから、宴会やパーティーなど大勢の人びとの集まる設定が浮かび上がる。

5,基本的な筋書きの設定と骨格づくり
●舞子は良夫と同級生であった。今日は彼がマラソンの国体代表選手に決まったので仲間と一緒にパーティーを開き、彼の決定的なスナップを撮って、彼にプレゼントした。●

 筋書きは単純であるが、基本的な要素は備えている。しかし、問題の“ネタ”が表現されていない。慣れてくれば、最初から詳細な描写が可能であるが、最初のうちはまず基本的な構成を備えてすすめたほうが無難である。

●舞子は大学時代の同級生である良夫に少なからず好感をもっていたがなかなかその気持ちを伝えるきっかけがなかった。彼がマラソン選手として国体の代表選手となったと聞いて同級生仲間を中心にパーティーを開いた。当日、真っ黒に日焼けした体に真っ白のブレザーをつけた彼はまぶしいくらいに格好よかった。パーティーのクライマックス、彼がシャンパンを抜くときは真っ先に「写ルンです」を一番前で構えた。
 そう、シャンパンを被っても平気だし、なにしろほかのカメラを意識する必要がなかったから。
 案の定、まともに浴びてしまったが、内心素敵な彼の表情が撮れたと確信した。あとは照れかくしに同級生仲間にも使ってもらったが、パーティーの終わりに、仲間から「あなたがカメラ構えているポーズ、素敵よ。おまけに真白のドレスにグリーンのパッケージだもの配色、考えたわね」といわれて内心ドキリとした。彼に気があることを気づかれたと思ったからである。舞子は現像があがってくるのが待ちどおしかった。●

 シナリオのなかで、まず、舞子と良夫の関係をさらに深めてみることによってドラマはいきいきとしてくる。また、高級カメラと比較されないので堂々と前にでても撮れる心理状態が描写要素として大切である。エピローグとして「彼にプレゼントした」ことについては“待ちどおしい”ことで十分に表現しているので、きっかけがつかめたか否かには言及する必要はないわけである。彼の真っ白なブレザーと舞子の白いドレス、日焼けの肌のあざやかなグリーンボックス(カメラ)の配色が魅力的であることで十分なのである。

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