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企画力・開発力アップのための近未来デザインシナリオ法講座

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第4節 シナリオライティングの基礎
〜情報収集とネタづくり〜

 「夢」−この言葉から受けるイメージはさまざまである。所詮、消えてしまうはかない夢とも受けとれるだろうし、夢をなんとか実現しようという「目標」として捉えることもあろう。いずれにせよ、あり得ないことをあたかも存在するかのごとく、思いめぐらしてみることである。
 前節では「仮説」の必要性を説いたが、この仮説も夢といいかえられる。われわれは、実は夢を描くがゆえに、現実を夢に近づけようと努力するのである。
 夢をもつには大層な道具立てはいらない。しかし、誰でも夢を描けるかというと、そうでもない。まず、しっかり現実に対する状況分析や批判ができていなければならない。そのうえで、新たな欲求をもたねば夢は描けるものではない。
 ここでは仮説づくりとしての「夢の見方」について述べてみることにする。
 夢をみるのにも何らかの根拠があるように、仮説づくりも、過去、現在をふまえたうえで明日を予測することといえる。もちろん、仮説は現実には存在しないことをつくり上げることである。しかし現実があり、その現実に何らかの変化を期待することでもあるから、現実とまったく無関係であるわけではない。過去から現在への状況変化から推論して、連続的に将来がイメージできることさえある。たしかに、一寸先は未来の一部であるから、不確定であることには違いない。しかし、容易に予測がつく場合も多い。つまり、これがなだらかな変化あるいは期待できる変化である。
 ところが、これとは逆に仮説がかなり現実離れする状況も起こり得る。いわば非連続的な変化となる場合であり、現状との変化の差が大きい場合である。
 これは、仮説の時間設定の尺度と深い関係をもつ。現在より未来へいけばいくほど現状とのイメージ差は大きくなる。それは情報の不確定要素が、時間的なひらきに比例して強くなるためである。

1,仮説の表現方法 シナリオ・ライティング

 シナリオ・ライティングはとくに新しい手法というわけではない。アメリカのシンクタンクであるランドコーポレーションが、1945年ごろから企業経営に使用しはじめた手法であり、1968年ごろ日本にも紹介された。この方法は、デルファイ法などによる計量的な予測を中心としたものではなく、文章によって未来をシナリオで描くものである。シナリオには筋書があり、シーン(SCENE)といわれる場面を想定できる文脈であったり、また、情景としての場面を伴う場合もある。いずれにせよ、5W1Hにもとづく起承転結が描かれるので、かなり自然な情景を想定しやすい手法である。
 シナリオを描くうえでは予測の生起確率に応じて筋書もかわる。その生起確率によって、楽観的シナリオ、中間的シナリオ、悲観的シナリオ、などのように描き分けられる。いずれにしてもその仮説は経済、社会、そして企業経営上の意志決定資料としたり、きたるべき未来への開発目標のビジョンと捉えていることにかわりはない。
 本来、シナリオは演劇や映画を制作するうえでの手法であり、これをもって経済、社会、経営などへ応用しようとするわけであるから、定義などの原則にしたがって適用する必要はない。シナリオ法のもつ特徴をより効果的にいかすことこそ重要なのである。
 このような考え方にもとづいて独自のシナリオ法について解説をしてみたい。

2,シナリオ法における時間尺度

 現在よりわずか1秒先のことを思い描いても、厳密にいえば仮説である。しかし、シナリオ法を今日、明日市場に出すような通常の商品企画に用いるのは大袈裟であり、労力的にもムダといえる。したがって、4〜5年先の近未来やその先の未来に適用するのが妥当と思われる。
 企業内では通常、企画、開発における中・長期ビジョンあるいは基礎研究・開発や新規事業、リストラクチャリング、CI計画などがその対象となる。図表4-1に示すように枠で囲まれたシナリオA、B、Cが一般的である。もちろん、15年〜20年先を描く、シナリオDがあってもなんら具合が悪いわけではないが、かなり先の未来シナリオはむしろ業界、国レベルでの予測尺度として必要となるだろう。それ以上のシナリオXでは、SF映画や演劇などの表現方法となる。
 シナリオ法の対象とするゾーンを考えるとき、同じテーマでも内容によってシナリオの設定目標とする時間尺度が変化するのは当然である。
 シナリオ化をすすめるには、これらの時間軸の尺度を設定し、それに伴う情報資料が必要となる。つまり、予測資料の背景をいかに固めるのかである。未来はやみくもにシナリオ化できるものでなく、その根拠がなければ描けない。
 その情報資料のひとつとして、デルファイ法による未来予測を用いることもできる。デルファイ法は各専門分野の学識経験者の予測判断をもとに、数理・統計的方法によって、あるテーマが生起する年代を予測する手法である。代表的なところでは科学技術庁による『技術予測調査』などがある。また、各専門分野の研究所、新聞社、雑誌社などからも各種の予測データが発表されている。シナリオはこれらの予測データを参考にしたうえで描くのが適切といえる。

3,シナリオづくりの実戦プロセス

 図表4-2に示すように、シナリオ化にあたっては、とくに描こうとするテーマの背景となる資料の収集が必要である。資料のなかでもデルファイ法や一般常識化している情報を「客観的情報」と称している。これに対する「主観的情報」としては“欲求願望”がある。
 描き手である個人、企業、行政によって、それぞれの理念、哲学、倫理性にもとづく「姿勢」が表現されるために、この主観的情報はきわめて重要であり、そのシナリオがもつ魅力の鍵となる。すなわち、シナリオの文脈に一貫した思想性、考え方、ポリシーが多かれ少なかれ感じられるものでなければ訴求力は弱いのである。
 この欲求願望のひとつには、現状に対する問題解決の提案があり、シナリオの文脈上重要な要素となる。
 ライターの間でよく使われる言葉に「ネタ」がある。もともとは、「種」が隠語化し、ネタとなったわけだが、これとは別に「ミソ」といういい方もある。シナリオ化の場合でもこのネタが文脈(コンテクスト)のなかにあることが求められる。単にネタだけでは、それが時代にどのように面目躍如たる輝きかたをするかは計りがたい。シナリオ法を用いれば、そのネタが生活を構成しているさまざまな要素のなかにリアリティをもって描かれ、理解しやすいシーンとなってあらわれる。
 シナリオ化のための描写のしかたについては次の章でくわしく述べるが、シナリオ化の前提としてこのネタづくり、ミソづくりがまず必要である。

4,主観的情報づくりとしての欲求願望

 人間のもつ欲求については第1節でその重要性を説いた。日頃の生活のなかで、人は多くの満足、不満足を感じる。新しい生活体験をするごとに、満足をしつつもやがて不満足を体験することも知っている。そして矛盾に陥る。しかし、このような体験のなかで、どうすれば満足できるのかを考え、知恵をだすことがなければ、新しい生活のシナリオは描けない。
 不満足を体験すればこそ明日へのいざないをもつにいたるものであり、また、夢みることもできるのである。革新性、創造性には、基本的にこのような欲求があることも事実だろう。
 野村総合研究所がまとめた「技術トレンドを探るための3『不』」によると、「世の中の不思議」、「世の中へのニーズ不満」、「忍び寄る不安」があり、これこそが、技術トレンドを探るための鍵であるという。これらの3つの「不」には多くのことが含まれている。これらをいかに解決するかが“ネタづくり”のネタであり、ネタそのものとなる。
 たとえば、「不安」については、高齢化社会の到来→若年労働者の不足→3K(きつい、きたない、きけん)を抱える職業(業界)への不安・・・などのように、不安は連鎖的にいろいろなところへ波及する。抱えているテーマへの影響を考えるとき、「このように解決すればよい」という提案がネタであり、シナリオ化への第1歩なのである。
 解決へのアプローチとして、デザインでは「関係づけ」がひとつの解決の糸口としてある。一般的な問題解決法、発見法、観察法、類推法などがあるが、シナリオ法の場合、基本的には「関係・関連づけ」を用いる。したがって、自由自在にアナロジーを用いることのできる人はこれらの手法を自分のものにしていると理解してもよいだろう。

5,仮説としてのシナリオ事例

 シナリオとは文章による筋書だが、4コママンガでもひとつひとつのシーンがある状況を物語っており、起承転結をもつ。ネタに相当する「オチ」も備えている。主張にもとづく筋書や提案があれば情景として通じるものである。3秒のシナリオ、1分のシナリオ、5分のシナリオ「「などの単純なものから細密なシナリオ化まで可能なのである。紙上だけでなく、テレビコマーシャル風、あるいは映画仕立てのシナリオまで考えられるわけである。図表4-3は道具の形態上からみたシナリオの一種といってもよい。この、形態にまつわる、形態ならではの使用状況を描けばもっとわかりやすいものとなるわけである。
 シナリオは短ければ短いなりのつくり方がある。そして図表4-4にあるようにシーンをカットとして挿入することによって、情景イメージを想定しやすくできる。静止したシーンは、容易に動いた情景、つまりアニメーションのように生活のなかでの動きある行為として認知され、容認されやすい。
 図表4-4にあるインテリジェント電話機の利用例では、事前に、つまり電話のベルが鳴る前にかけてきた人が誰であるかがわかる“しくみ”がネタなのである。
 このしくみは一言でいえば、「事前確認」にすぎないが、それだけではその利用イメージが湧きにくい。電話にでたくないとか、でにくい状況を生活のなかに設定して、その心理的な動きを含めてシナリオ化することで容易にその意味を理解させることができるわけである。図表4-5は文章による例であり、かなり製品の使用にいたる心理描写を克明に描いている。
 次節では具体的なシナリオの作成について述べることにしたい。

図表4-5「シナリオ事例〈老人大学への入学〉
 吉田さんは今年70歳。40年間勤め上げた鉄鋼会社を定年退職した際に退職金で建てたアパートから月づき入る収入で、悠々自適の生活を送っている。若い頃の軍隊時代の話しをよく自慢話として孫に聞かせる吉田さんは、1年前に30年間連れ添った奥さんに先立たれたいまも、「まだまだ若い者の世話にはならん」と頑固に1人暮しを続けている。が、週1回、近くに住んでいる娘の家に遊びにいく以外は2〜3人の友人がたまに訪ねてくるだけという状況で、あまり話相手もいない吉田さんは人恋しい今日この頃である。
 そんなある日、週1回市役所で配布している市民だよりをみると「老人大学開設についてのお知らせ」という記事が載っていた。内容としては語学、俳句、手芸、パソコンなどと多岐にわたっており、好きな科目が選べるようになっている。同年代の人びととも親交を深めるチャンスでもあり、趣味の盆栽も少々飽きてきたところなので、さっそく申し込むことにした。しかし、先刻から降り続く雨は止みそうになく、外出するのもおっくうなのでモニターとして利用を頼まれているVT※を使ってみることにした。
 スイッチを入れ、市役所の老人大学コーナーの電話番号を入力すると、老人大学の内容説明が画面にあらわれた。通常よりも大きい文字で表示されている気配りに感心しつつ、スピーカーから流れてくるアナウンスを聞き終わると、指定された画面の一部に手を触れた。すると画面が変わり、科目の一覧表があらわれた。日頃から「若い者には負けられん」と気張っている吉田さんは、最近若者の間で流行っているというパソコンをマスターすべく「パソコン講座」を受講することにした。さっきと同じように手を触れると、また画面が変わり、「自宅からおかけですか?」とのメッセージが表示されたので、「はい」と表示されている部分に手を触れた。続いて「『名前キー』をお押しください」との表示がでたので、あらかじめメーカーに登録しておいた「名前キー」を押すと、「これで登録は完了しました」との表示がでてすべての手続が終了した。自宅からかけた場合には名前を入力するだけで住所、年齢等そのほか登録に必要な事項は、こちらの電話番号をもとに市役所のほうで自動的に検索してくれることになっているのだ。
 手続開始から終了までおよそ5分、通話料金はおよそ100円。市役所まで直接行くと往復30分、バス代300円かかる。時間もお金も節約でき一挙両得である。以来吉田さんは大のVT党となり、ちょっとした用はすべてVTを使ってすませることにした。
 現在、吉田さんは週3回市民会館で開かれる老人大学に通っているが、そこで会う人ごとにVTのことをすすめているという。

※VTとはVisible Terminalの略で、電話機能にファックスやパソコン機能などのマルチな機能が加わった未来型の情報機器イメージを示す。 

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