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企画力・開発力アップのための近未来デザインシナリオ法講座

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第3節 アコースティック・フィールドで消費者ニーズを確実につかむ
〜商品の「仮説」による双方向コミュニケーション〜

 情報化時代の到来といわれて久しい。しかし、なぜ情報化時代なのか、それを把握することはきわめて難しい。
 ここでは、いまなぜ情報にこだわるのかを商品企画という“モノ・コト”づくりの立場からとらえてみることにする。そして、とりわけ「デザイン」のかかえる抽象的、かつ具体的な情報がいかに商品企画や事業企画に深い関係があるかを解き明かしてみたい。
 結論をいえば、情報のないところにデザインはあり得ず、デザインのないところに商品企画はあり得ない。デザインにかかわる情報は商品企画に必要不可欠の要素であり、将来をかたちづくるための創案の「鍵」となるものである(図表3-1)。

1,商品企画における情報とは何か

 製品はメーカーによってつくられる。そして商品として消費者に購入されて、はじめて「道具」となる。また、道具には、企画立案のための市場調査から消費者に使われるまでの全プロセスにまたがる情報が含まれている。つまり、道具を成立させている情報は、この全プロセスを腑分けすることで理解することができる。
 “市場を知らなければ商品企画はできない”といわれる。しかし、ここでいう「市場」とは、一般的にはつくり手と使い手の接点である流通を指す。そして、この場合の流通という言葉は、つくり手側・販売側から使い手に向けた視点をもち、逆の見方が弱いものである。いうまでもなく、最終的に商品の購入を決定するのは消費者であり、プロダクト・アウト的な調査による市場情報は、真に価値のある市場情報とはいえないだろう。しかし、このあたり前ともいうべき認識が、ともすると希薄になりやすいのも事実である。消費者の潜在的な声を情報としてとらえなければならないはずなのに、流通の論理による解釈や判断が、ときとして声高になる場合が多いのである。
 一般的には企画に必要な情報とは、社会全体の大きな変化を把握するマクロ的情報と、生活者自身の生活のなかの小さな“襞”に潜むミクロ的情報である。いずれもこれらの情報はマーケティング上の各種のリサーチやサーベイによって得られるのが普通である。
 さて、ここでやっかいな問題が生じる。“情報の質”である。あらためて説明するまでもなく、製品企画は多岐にわたる多義的な情報をもとに構成されている。
 高度成長期のように市場が拡大したA.マズローの“社会的欲求”の時代では、たしかにアメリカ流のマーケティング理論による手法で成立したかもしれないが、今日のような多様化、個性化の時代にあっては、情報内容もまた多様に求められる。情報内容の正確さや企画の鍵となる新たな情報、すなわち“情報の質”に目が向けられる。
 マーケティング部門のない企業では、販売部門を中心として、サービス、技術、そしてデザインなどの部門から情報を集約して企画を行っている。しかし、マーケティング部門ですら、多岐にわたる分野の情報を取得する場合、少しでもスタンスに偏りがあると、たちどころに貧弱な情報の集積となる。ましてや、情報の集約機能の弱い企業では必要とされる情報が欠落したままで企画となる。最近はデザインと消費者心理との関係情報がとくに求められているにもかかわらず、それをまったく企画条件に組入れないままの売れない商品が多い。
 しかしながら、仮に強力なマーケティング機能をもっていたとしても問題はある。たとえば、自動車業界では、各社のマーケティング部門でまとめられる情報は、ほぼ同じであるといわれている。多様化、個性化の時代といわれながら近似した情報による企画を立てれば、その開発結果は同質類似化の傾向をたどりやすくなるのは当然といえよう。だが、果たしてその情報は正しいのだろうか。たとえ手法が正しくとも、情報取得の場や機会に問題はないのだろうか、という疑問が湧いてくる。
 そこで、リサーチやサーベイの方法もさることながら、情報取得の「場と機会」があらためて問題となってくる。筆者も製品企画の成功を左右するのは情報の質であると、日頃の仕事を通じて実感している。つまり、消費者の本音がしっかりとれる“フィールド体制”で行われているか否かである。これまで流通における店頭での情報収集や一般消費者へのヒヤリングや調査票などで行われているが、製品企画開発の全プロセスのなかではシステム化されていない。もともとシステム化しがたいフェーズなのかもしれない。これらのフィールドから集められ、分析された数値データはコンピューターによる多変量解析手法などににより、一見、すばらしくできがよく、正確さを装っているが、情報収集のフィールドと取得システムそのものは、はなはだ頼りないものである。

2,情報取得の条件−「仮説」づくり

 商品企画は、基本的に現在は存在しないものを企画するわけであるから常に未来に向けて行われる。大袈裟にいえば新しい創造により、現状を否定することだといえるだろう。しかし、情報とは基本的に消費者の体験から得るわけであるから、予知情報とは原則的に異なる。消費者に向かって、“何をつくればよいですか?”などと仮に問いかけても、適切な回答が得られるわけではない。ごくまれにヒントが得られたとしてもそれは偶然であり、常には期待はできない。しかし、商品の購入決定者である消費者からの情報取得にはそれなりにひと工夫を要する。
 まず、基本的には企画する側が「仮説」をもたねばならない“手ぶら”で消費者からニーズを聞きだそうとするのではなく、とりあえず明日の生活に対する姿勢をもち、それにもとづき、わかりやすく具体化した演出としての仮説を消費者に示す必要がある。商品そのものが仮説のひとつといえなくもないが、企画の意図(コンセプト)をわかりやすく五官に訴える表現にするのである。仮説であるからとりあえず現時点での考え方をまとめた試作品や、模型や写真、スケッチなどでも意図は伝達できる。使用状況はビデオなどの映像にしたほうが伝わりやすい。
 今後はこの映像手段が注目されるはずである。たとえば、ハイビジョンによる高精細度の画質が仮説をリアリティのあるものにし、さらには立体画像が「疑似商品化」への足がかりとなるからである。
 現在はまだ未完成の技術ではあるが、仮想現実(バーチャル・リアリティ、Virtual reality)とか、人工現実感(アーティフィシアル・リアリティ、Artificial reality)といわれるハイ・テク技術がある。これは実際に製造し、市場にだしてみなければ消費者の反応がわからない現在の企画プロセスから考えると、たいへん魅力のある技術である。企画開発の分野以外にも、きたるべき未来社会の資源、エネルギー対策にも有効な支援手段となるなど、応用範囲は無限にある。効率的に有益で質の高い商品の企画をめざすうえからも注目をせざるを得ない。実際には模型、スケッチの延長としてCGやCADによる「疑似商品化」とそれに対しての「疑似体験化」が中心となろう。つまり、生産の前段階の企画段階において疑似化によるシミュレーションを行い、一種のフィードフォワードをはかるわけである。
 しかしながら、人工現実感や仮想現実感などの技術を待つまでもなく、仮説の提示は可能であるし、それによる情報取得の方法がないわけではない。

3,求められる情報取得の「場」−アコースティックフィールド

 情報の取得にあたって、企業と消費者の接点となるのは流通やメディアなどである。具体的なフィールドとしては、販売の最前線である店頭販売、訪問販売、通信販売、メディア(テレビ、電話など)がある。営業活動はないがショールームもこの範ちゅうに入る。なかでも情報取得を第1の目的としたアンテナショップは、感度の良い場所、つまり流行に敏感に反応し、時代を先取りしている人の集まる場所に店舗を設定し、商品を通じて反応を調べるしくみである。しかし、このアンテナショップといわれる情報取得のシステム研究は、まだ緒についたばかりである。必要情報の取得とその正確さが急務となり、「場」のシステム化を模索しているのが現状だといえるだろう。
 仮説にも適切な「場」が必要である。そこで、現状の「場」を分析し、これからどのような条件が必要となるかを整理する。そのことで、新たなシステム設計への基礎的条件を示しておくこととするが、おおむね次の4つの要素で「場」は構成される。

@知識情報
 一口に商品情報といっても、陳列される商品背景だけではなく、関連商品全般にかかわる生活商品知識のことである。
 たとえば、地域消費者を中心としたフォーマル、インフォーマルな情報の提供がそうである。生活知識情報の例としては、ミニ博物館、教室、教本、ミニコミ誌的情報、コレクション、サンプル・カタログ提示などがある。これらによって消費者は知識を吸収し、満足のいく商品購入への意志決定と明日へのいざないをもつことができる。

A演出性
 情報取得に際しては、まず人を集める必要がある。「仮説」をモノやコトとして提示するにしても、情報を動かしてみせる、いわばパフォーマンスなどのイベント性が求められる。提案情報を発信する際の一種の節目の役割を果たすものである。
 具体的には、ショー演出、展示、コンクール、演奏・演技などのイベントがある。集まった他人の反応も刺激となり、新たな感動を得る機会として欠かせない要素のひとつである。

Bサービス、メンテナンス性
 消費者が購入後、使用して廃棄処分に至るまで、商品からは情報が発生しつづける。したがって、常に相互コミュニケーションをとり得るしくみを設けることが望まれる。企業と消費者がともに生活者であるという関係が今後は強く求められるからである。具体的にはハード、ソフトにかかわらずサービスとメンテナンスのステーションである。また、指導、教育、コンサルテーションの機能なども重要な要素となる。

CD・I・Y(Do It Yourself の略)性
 消費者はもはや“創費者”といわれるが、生活者の生活のシカタにもとづくソフトが必要であり、個々によりD・I・Yは変わる。D・I・YはA.トフラーのいうプロシューマーの概念まで広げていいだろう。“生活者がつくり手である企業のなかに入り、企業が生活のなかに入る”という回路のひとつである。両者の接点にあってコンセプトや加工を互いにもち合う機能といえる。
 実際には、既成商品にない要素を互いにつくるわけであるから、店頭など目の前でソフトが選べたり加工できたりするシステムとなる。ハードでも機能・性能、かたち、操作性などの変化が注文によって可能となるしくみを指す。

 以上のようにつくり手と使い手の間には多様な接点が可能であり、それらが必要であることが理解できるわけだが、いままで、あまりにも一方通行型の伝達回路であったため、情報取得に無理があったようだ。いま、両者の相互情報交流の「場「空間」が求められている。この場、つまりこの空間こそ相互に将来の生活を評価できるものである。両者の中間に位置するマージナルな機能のなかに、必要とされる情報が多岐にわたって生じる。そしてこの基本的な4つの要素がそれぞれ組合わさって評価空間、つまりつくり手と使い手の“共鳴・共感”できるアコースティックな空間(場と機会)ができるのである。

4,アコースティック・フィールドを求める

 さきにも述べたようにアコースティック・フィールドといわれる評価空間は多様である。そして、評価空間と呼ばれるアコースティック・フィールドは基本的に4つの要素で構成される。しかし、純然たる情報取得のためのフィールド設定というより、“いかに商品が売れるか”などという販売促進のねらいを兼ねて設計される場合が多い。売買を前提とした、ごく自然な生活行為を背景とした空間のなかにこそ本音の情報、つまり信頼性の高い情報が求められやすいと思われているからである。
 アコースティック・フィールドの構成には、消費者と商品の役割・機能の「かかわり方」があくまでも鍵となっている。
 たとえば、本格的なアコースティック・フィールドとはいえないが、食品を購入してもらうために、事前に試食してもらう「イートインシステム」がある。また、食品ととくに関係の強い商品との組合わせ展示がある。食品と関連食品、食品と食器、食品と調理器具、といった具合である。この形式は喫茶店やレストランと食器・食品の販売・展示へと展開していく。
 金沢の「ミュゼ」は洋ランをはじめ観葉植物を展示販売しているが、なかでもハーブ販売と隣接したカフェテリアではハーブティーをのみながら植物の店舗を眺めることができる。ギャラリーも併設され、花とみどりの展示が催される。
 また、東急町田店はカタログ的なアソートメントが豊富に用意されているが、商品として半完成品を置き、D・I・Y的機能をもたせているのが特徴である。
 これとは反対に徹底したアソートメントがある。ノートならノート、靴下なら靴下、そして傘など、売れ筋商品以外のすべてのものが用意される店舗である。食事でもかぼちゃやポテトを主体とした専門料理をだすショップ、スープのみのショップなどのスタイルがある。
 以上の方法は、いずれも商品単体で消費者とつながりをもとうというのではなく、生活の行為を小さな行為単体で引き伸ばした状態、いわば点から線にすることで、より多様で正確な反応情報を得ようとするものである。とくに徹底したアソートメントでは、店舗そのものがテーマ商品による全マップとなり、“動くチャート”といえるかもしれない。
 さて、ショールーム的性格をややアクティブにシフトしたものとして INAX, TOTO,コクヨ、松下電器、キリンビール、サッポロビールの工場などがある。イベント型としては松下電器の東京パーン。また、訪問販売などは直接販売員が消費者とグループで接する機会があるので、情報取得には有利な条件がある。サービス型については前向きの情報は得がたいが、たとえば、「故障」という電話に応じてただちに原因を追求し、新企画にフィードバックしている“歯車110番”は典型的な例であろう。
 最後にアコースティック・フィールドの事例を3つあげてみる。

@アイチ・コーポレーション−テクノセンター
 産業機械メーカーのアイチ・コーポレーションでは、電設・建設関係の高所作業車輛を企画・開発するのに役立てるため、2ヵ所にテクノセンターを設置している。このセンターは試作品、新製品の実演をはじめ、顧客に体験してもらい、ヒヤリングとコンセンサスの機能として情報をフィードバックしている。また、車輛の操作と作業などのライセンス取得と、教育指導体制を人材と設備とともに用意している点が特色である。

Aキヤノン−ゼロワンショップ(01ショップ)
 情報機器を販売しているキヤノン販売では、オフィスのニーズに対応する「窓口」として、“ゼロワンショップ(ZERO-ONE)”を位置づけている。したがって、各種のコンサルティングをはじめとして顧客の仕事を、企画・運営・メンテナンスまでバックアップするシステムとなっている。顧客とのこのような一連の仕事を通じてのかかわりのなかに、ニーズ、シーズの発見の「場と機会」を設置した意味がある。

B積水ハウス「「総合住宅研究所
 積水ハウスでは総合住宅研究所を設置し、そのなかに“納得工房”と称する、顧客が“試す、知る、感じる、みつける”などのプロセスを体験してもらう評価空間を設けている。いずれもつくり手側の提案と使い手側の情報交流(情報摩擦)により、新しい方向性をもちあうことを意図したものである。
 以上、3つの事例を述べたが、これ以外のものも、模索の段階であることにかわりはない。とくに「仮説」の提案方法とその読みとり(顧客反応の観察と取得)方法は、POSシステムなどからのデータをいかに活用するか、ということが今後のテーマであり鍵となろう。
 このアコースティックフィールド論を基本とした、通商産業省の外郭団体である(財)日本産業デザイン振興会のプロジェクト「産業文化育成拠点」がある。約3年間の研究をつづけ、一応のコンセプトのまとまりとして終了している。今後はさらに、この研究成果としての提案をもとに各主要地域にふさわしい産業文化育成拠点としてのあり方が注目されている。
 この拠点の意義および目的はアコースティックフィールド論を基礎としているが、その全体機能は全く日本をはじめとして海外にも存在しない独創的なものである。21世紀の情報活動の中心となるものであり、とくに2005年以降のISDN(高度情報通信網)の完成を機に、マルチメディアとリンクし、21世紀のパラダイム構築の役割を果たすものとしてである。
 ここに、この装置概念を箇条書で記しておく。
@企業は本来、経済的成長と同時に社会的・文化的な価値をも創出し、評価される役割をもつものである。そのためには企業文化としての価値基準を革新しつつ、企業活動を行なうことが求められる。

A企業文化は個々の企業活動の目標であるが、本来、産業全体の問題でもある。産業全体の活動のしくみそのものを革新していくことも同時に求められている。

B産業文化育成拠点はこの産業全体のしくみとしての産業文化を生みだす装置概念である。

Cこの拠点は装置として様々な機能をもち、産業全体・社会全体に経済的価値と文化的価値を創り出す推進的な役割をもつものである。

D国際化における“協調・共生精神”を推進するための基地として拠点の意義は大きく、経済的・文化的リーダーシップを担う日本にとっては、まさに重要な鍵といえる。

E拠点の立地イメージとして、国際性・市場性・広域性・都市感性など産業文化装置のインフラを満足させる都市が望ましく、国内をはじめとして海外諸国との接点としての地が候補である。

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